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    最後の作曲家たち

     以前何度かこのブログでとりあげた、ウラディーミル・マルティノフのことを調べているうちに、彼と親交のあるラトヴィアの作曲家ゲオルグス・ペレツィスに行き当たった。
     面白いことに、私はペレツィスの器楽曲Nevertheless を10年以上前に聴いていた。ギドン・クレーメルの率いるカメラータ・バルティカの演奏によるバルト諸国の作曲家達の作品を集めたCDに入っていたのである。

     ソ連解体後、経済的にも政治的に混乱のさなかにあった90年代、マルティノフとペレツィスはそれぞれロシアとラトヴィアにいながら、往復書簡によって共作を行っていた。彼らは言わば創作上の同志だったのであり、作風にも共通性が感じられる。基本的には抒情的であり、時に非常に天上的であり、ミニマリズム的な技法をしばしば用いながら、アントン・バタゴフほどは乾いた諧謔的なポストモダンの空気を感じさせない。特にペレツィスの方は、現代の作曲家としては奇跡的なほどに無垢な抒情性を感じさせる。人はそういう作品に触れたとき、それを「美しい」としか形容しようがあるまい。

     マルティノフとペレツィスの生年は、それぞれ1946年と1947年、世代的な共通体験も多いはずである。彼らの世代は、1950年代後半から60年代前半のソ連における「雪どけ」の時代に思春期を過ごしたたものの、創作家として成長しキャリアを積むべき青年時代には「停滞の時代」の思想・表現上の締め付けを経験しなければならなかった。彼らより上の世代と違って自由を謳歌する余裕もそれほどなかったわけである。

     マルティノフに関して言えば、Youtubeで公開されているインタヴューで、1957年にグレン・グールドがモスクワ公演で演奏したバッハを聴いたことが作曲を志すきっかけになったと語っている。ちょうど映画界では「雪どけ」を象徴するような『カーニバルの夜』や『鶴は翔んでゆく』等がスクリーンに現れた頃である。彼らは、短かかった春の自由さを謳歌する上の世代のヒーロー達(タルコフスキーはその代表の一人だ)を見ながら育ったことだろう。実際、近年マルティノフは何度か公の場でタルコフスキーの晩年の映画(『ノスタルジア』と『サクリファイス』)に言及している。
     
     「60年代人」と呼ばれるタルコフスキーらの世代が次々に世を去っていくなかで、マルティノフやペレツィスが“権威”や“古典”と見なされるようになってきたのは、当然の流れだろう。だが、もしかすると彼らの世代が最後の偉大な作曲家になるのかもしれない。マルティノフ自身、“作曲家の時代は終わった”と公言しているくらいである。彼によれば、最近の作曲を志す若者達に、現代の作曲家の名前を挙げてみろと言うと、彼らは誰の名前も挙げられないという。また、かつては自宅にくる来客にショスタコーヴィチのレコードを聴かせる科学者がいたが、今アルヴォ・ぺルトやスティーヴ・ライヒの音楽がそのような扱いを受けることは想像すらできない、ともいう。

     アカデミックな音楽の衰退は、映画のアトラクション化や文学のエンターテイメント化と同様に、文化的産物に対する消費主義の終着点なのかもしれない。芸術作品とその鑑賞を、単なる「高級な舶来品」や「ステータス・シンボル」に変質させてしまうのも、同じ文化的消費主義である。それを“仕方がない”と受け入れてしまっては、もはや音楽からは、もっと言えば芸術全般からは、形骸、模造品だけしか残らないだろう。或いは、最終的に全ての作品が応用芸術というカテゴリーに入ってしまう。例えばデパートやカフェのBGMである。
     人類の歴史上、芸術がそこまで貶められた時代はなかった。だが、そのような状況が近い将来現実のものになるとしたら、人類はそれで幸福になるだろうか。御用学者達はそれを“文化の民主化”とでも呼ぶだろうか。
     
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    Shusei Nishi

    Author:Shusei Nishi
    私の専門は映画であり、映画と音楽には相違点も勿論ありますが、多くの共通点もあります。個人的には、映画は現在の形よりもっと音楽的であっていいのではないかと考えています。

    ここでは批評やレヴューというほどではなく、偏愛する音楽と映画、そして生活全般における“別の選択”について書いてゆきます。

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