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    システムの移行期に運命を「作る」こと

     人の資質や才能が十全に発現するためには、それらが枯れてしまわないための最低限の環境が必要である。
     ここで言う環境とは、周囲の全ての要因が総合されたものであり、一つや二つの条件のことではない。

     生態系の例を見れば良く分かる。
     南米の熱帯雨林には多種多様な動植物が生息しているが、過去にはその範囲はもっと広大だった。海から吹きこむ貿易風の流れが変わっただけで、熱帯雨林の境界は内陸部に後退してしまった。熱帯雨林が後退した後にできた湿原では、山火事に耐えて表皮が堅く進化した樹木等、比較にならないくらい少数の動植物しか残らなかった。

     アラビアの駱駝も同じだ。彼らはオアシスに辿りつくまで水を飲まずに長期間生きていけるよう進化を遂げたが、その代わり優雅とは言い難いコブを背中にもつことになった。

     人間の才能や資質も同じである。スポーツ選手やお笑い芸能人ばかりがもて囃され、芸術という言葉が何か不信をもって用いられるような社会では、ドストエフスキーやトーマス・マンのような才能、資質は伸びる以前に枯れるかもしれない。
     文学の場合はまだいい。書くのにはパソコンとワープロソフトだけがあればよいし、何十年も評価を待つこともできる。映画作家の才能が開花する条件は、文学とは比較にならないくらい限定的である。健全な映画産業というものが必要なのだが、その「健全さ」は、歴史的に見れば近代資本主義が大衆社会と大量消費社会を実現していった過程にしかなかった。
     そのプロセスはもう、遠い過去のものである。今は近代資本主義の末期なのだ。

     私は大学生の頃、2041年の世界を舞台とする20分の短編映画を作った。「Dialogos」というその短編では、文字通り4人の対話がプロットを進行させる。出来事としてはそれだけである。1989年当時の「現在」のエピソードと2041年の「未来」のエピソードの交替により、主人公の個人的な「運命」と文明の「運命」との接点が明らかになっていくという構成である。当時それは直感的に浮かんだ構成だったので、論理的にそう考えて作ったというわけではない。

     主人公を演じたのは、数年前に小説家としてデビューした杉浦昭嘉君である。
     勿論、当時彼は映画を目指しており、実際に映像の世界に進んだ。
     だが、映画産業は既に述べたように、健全さを失って凋落している。小説に取り組み始めたのは正しい選択だろう。



     「Dialogos」の中で彼が演じたのは、物静かで、どこか虚無感も漂う、どうやら文学好きの青年である(当時の本人のイメージに近い)。彼は「退屈」しているのだが、それを金銭で「紛らわす」ことの虚しさを感じ、その退屈に甘んじている。このような若者のイメージを、現在の日本の観点で見てはいけない。当時は土地バブルの頂点、日本の大量消費文明の頂点だったからだ。それは破滅への道だと、私は気づいていた。それゆえの「虚無感」なのだ。
     
     杉浦君の最近作は、福島原発事故をモチーフにしているようだ。彼は「Dialogos」で私が暗示したようなタイプの、「日常生活を描き、ありふれた話ばかり」書く小説家にはならなかった。それは彼の資質によるだけでなく、80年代末のバブル崩壊以降、現実の社会があの映画で示した未来にますます近づき、80年代までのありふれた日常的出来事がノスタルジーの対象にしかならなくなった、ということにもよるのだろう。

     そうした日常生活は、いまだにテレビドラマで人々を「安心」させている。そして多くのビジネスマンも、それが永続するかのように生きている。古いシステムへのノスタルジーはいまだに強いのだ。それに違和感を感じ、その違和感を表現や行動に表せるかどうか。ステムの移行期に生きる我々が運命を「作る」ことができるか否かは、そこにかかっている。
     

    原発と拳銃原発と拳銃
    (2012/02/11)
    杉浦昭嘉

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    Shusei Nishi

    Author:Shusei Nishi
    私の専門は映画であり、映画と音楽には相違点も勿論ありますが、多くの共通点もあります。個人的には、映画は現在の形よりもっと音楽的であっていいのではないかと考えています。

    ここでは批評やレヴューというほどではなく、偏愛する音楽と映画、そして生活全般における“別の選択”について書いてゆきます。

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