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    映画文化の「二重システム」化 ―21世紀の展望②

    「オペラ化」の段階に入った先進国の映画文化1.0

     今後、先進国の映画産業を取り巻く状況は次のようになる。まず、地球全体の人口増加と新興工業諸国の工業化により地球生態系への負荷が増大するだけでなく、一部の重要な資源は枯渇の恐れがあるため、脱工業化の段階に入っている先進諸国はそれほど経済成長を進める余地がない。経済が低成長又はマイナス成長にもなり得るため、雇用の確保にも限界がある。その上、社会全体の高齢化により、年金を始めとする社会保障費の増加が現役世代の経済的負担を増し、中産階級は全体として娯楽費を減らさざるを得なくなる。また、彼らの間でも所得格差の拡大が進むだろう。先に触れた北米市場における映画館利用回数の漸減傾向も、インターネットによる配信やブルーレイの普及といったプラットフォームの多様化だけでなく、中産階級の可処分所得の減少も影響していると思われる。

     世界的に見れば、従来の映画館中心の映画文化1.0は、中国やそれに続く新興工業経済地域において規模の拡大と成熟を続けると思われる。MPAA(アメリカ映画協会)発表の最新資料を見ると、2009年~13年で北米の興行収入は3%しか増えていないのに対し、世界全体では22%、アジア太平洋地域では55%、ラテン・アメリカでは78%の増加を示している 。これらの国々ではこれから20~30年間は工業化と都市部への人口集中が続き、経済成長につれて国民の可処分所得も増え、ライフスタイルと嗜好の多様化が進むと思われる。同様なプロセスが進んだ20世紀の半ばから70年代にかけての先進諸国で見られたように、高等教育を受けた人々、知識人の間で「アートハウス映画」への需要が高まり、たとえ映画産業の成長が鈍化したとしても映画文化の複雑化は続き、その創造的活力は枯渇しないであろう。但し、新興工業経済地域で映画がフィルムで撮影され続ける可能性は低い。また、近代西欧の芸術概念の影響が中国や新興工業経済地域の映画文化1.0に継承され得るかどうかは、定かではない。
     
     他方で、先進諸国の映画文化1.0は、既に「オペラ化」の段階に入っていると考えられる。オペラは19世紀のヨーロッパでは中産階級から上流階級に至るまで、「総合芸術」及び娯楽として鑑賞されていたが、20世紀に入ってからは映画によってその地位を奪われてしまい、公的な助成金なしでは存続が難しくなった。そして遂には、ごく少数の専門家と好事家以外には、ほとんど全く鑑賞されないようになった。それと同様に21世紀の先進国において、映画産業は若年層の観客減少と全般的な需要の低迷、そして公的助成金を獲得する必要から、必然的に保守化せざるを得ないだろう。「アートハウス」の観客にとってその魅力の一つであったカウンターカルチャーやサブカルチャーの要素は徐々に失われ、低予算に見合うミニマリズム的なスタイルの中に押し込められていくだろう(後者の傾向は現在、ロシアの若手による作家映画に顕著であるが、ヨーロッパのアートハウス映画は総じてその方向に向かっている。ダルデンヌ兄弟の諸作品にはそれが顕著である)。先進諸国のアートハウス映画は、より表現上の制約が少ない映画文化2.0に合流してゆくと思われる。つまり、アートハウス映画は公開の場としてインターネットを選択するケースが次第に増えてゆく
     
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     映画文化2.0は、劇場公開用劇映画と比較すればほとんど予算を必要とせず、時間の制限も表現上の制約も少ないという利点を持つ。それだけでなく、映画文化2.0はその参加者に、映像を読解する能力と映像による思考能力を開発するように促すだろう。それらの能力は、活字メディアに取って代わるわけでも、活字メディアを衰退させるわけでもない。映画文化1.0が19世紀の長編小説の「語り」の技法や構成を映画的叙述の諸手段によって変容させ、そのことで豊かにされた映画的叙述が今度は20世紀の小説に影響を与えたように、映画文化2.0がその参加者に開発を促す映像による思考は、活字メディアに創造的刺激を与えるだろう。

    (次回に続く)

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    tag : 映画文化

    映画文化の「二重システム」化 ―21世紀の展望①

    映画文化2.0

     2014年現在、インターネットがこれまでとは違った映画文化の形成を促すと考えるに足る兆候が幾つもある。以下にそれらを列挙したい。

    1.映画の製作費回収の手段として劇場公開、テレビ放映、ソフト販売に加えてインターネット配信というオプションが普及したこと

    2.先進国全てにおける若年層の失業率増加や可処分所得の減少による、彼らの映画館離れの進行

    3.先進国において劇場公開を前提とする高スペックな映画製作の商業的リスクが上昇し続けていること

    4.アマゾンや米国のメジャー映画会社、映画スタジオ等が映画のネット配信やダウンロード販売を進めていること

    5.映画専門の有料テレビ・チャンネルが、テレビ放映だけでなくインターネットでの視聴というオプションも提供し始めていること

    6.2000年代に(特に日本において)映画製作を経済的に牽引してきたテレビの、メディアとしての非効率性や表現上の制約が、映像産業従事者や一般観客に自明になってきたこと

    7.YouTube等のプラットフォームを利用した、有料及び無料の映画配信の拡大(後者は主にパブリックドメインの古典作品)

    8.低予算・自主制作の劇映画やドキュメンタリー映画のインターネット配信の増加、それらの表現や内容の多様性(表現面では実験的スタイルや短編、内容面では歴史解釈、時事問題、公的機関の内部告発的なものを含む)

    9.インターネットでは、ストックフッテージやパブリックドメイン映像を活用した、実験的映画の公開が容易であること。

    10.公的機関や民間企業、更には個人による、インターネット上でのパブリックドメイン映画の公開と視聴が拡大し始めたこと

     これらの要因全てについて(詳しく解説する余裕はないので)簡単に述べておきたい。1、2、5に関してはネットで検索すれば比較的簡単に裏付けの情報が得られる。これらは経済的及び産業的な事実にすぎないからだ。3については、世界同時不況とそのEUへの影響以外に、具体例として2000年代を通じて観察される北米の一人当たり映画館利用回数の減少や08年以降の超大作を除く長編劇映画の製作費下落という事実を挙げることができる 。4に関しては、現時点で販路が拡大しつつあるものも、既に市場から撤退しているものもある(前者の例は米国で先行し日本でも開始されたAmazonインスタント・ビデオ、後者はサービス終了を決定したワーナー・オンデマンドである)。ロシア2大スタジオ(モスフィルム、レンフィルム)もYouTubeチャンネルでの無料公開に加えて有料ダウンロードのサービスを始めた。6は筆者自身がテレビ番組制作スタッフや翻訳者として働いた経験と、福島第一原発事故以降の一般市民によるテレビ報道への批判の増加や、英語圏での同様な傾向を念頭に置いている。7~10は、YouTube、Internet Archive(https://archive.org/)及びそれらに続いて現れた各種の公的、私的なインターネット上のチャンネルやアーカイヴの展開を念頭に置いている。

     これらの要因全てを考慮すれば、映画を「動く映像と音による芸術」と定義する限りにおいて、今後インターネット上に新しい映画文化が姿を現すだろうことは疑い得ない。この新しい映画文化を、ここでは仮に「映画文化2.0」と呼ぶ事にしよう。この映画文化は、映画館とフィルムを核としていた古い映画文化(仮に「映画文化1.0」と呼ぶ)の支持者にとって、最初のうちは混沌としているように見えるかもしれない。だが、フィルムと映画館を中心としていた映画文化も、19世紀末から20世紀初頭のうちは原始的で混沌としていた。インターネット上の映画文化も、次第に一定の価値観を共有し構成要素間の相互作用をもったものに変わっていくだろう。
     
     映画文化2.0はその自由度の大きさによって若年層を惹きつけるだけでなく、映画文化1.0の遺産も継承するだろう。何故なら、現在インターネットのユーザーには、かつて映画館で上映された「映画」というコンテンツへの需要が少なからずあるからだ。企業や公的機関はその新しい需要に応えており、インターネット上で鑑賞できる映画は日々増大している。映画館やシネ・クラブやフィルムアーカイヴに通っていた熱心なファンは、かつて「貴重な上映機会」に自分のスケジュールを合わせて生活していたことが馬鹿馬鹿しく思えてくるかもしれない。今や100年以上前のサイレント映画でさえ、インターネット上で見つかることが多いからである。先述のInternet ArchiveのMoving Images Archive (https://archive.org/details/movies)では、(主にアメリカの作品だが)教育映画や政治宣伝映画、短編を含めて多数の作品が無料で鑑賞・ダウンロードができる。また、ロシアのモスフィルムやレンフィルムも戦前の映画作品を多数、無料公開している。
    (ヨリス・イヴェンス監督『橋』(1928)
    (ウルヴァン・ガッド監督『深淵』(1910)

     映画文化1.0は、20世紀のアメリカ、ヨーロッパ主要国、日本において、資本主義という経済・社会的システムの成熟と共に全盛期を迎え、過去30~40年間に渡るその衰退と共に衰退してきた。ソ連の映画文化は1950年代末以降の都市化の進行や中間層の拡大と共に成熟したが、その段階で既に国営スタジオに部分的な市場原理の導入が行われていたことは無視できない。総じて20世紀の先進諸国は、工業化と大衆消費社会の成立、中産階級の拡大によって経済的成長を遂げ、映画文化はそのような条件のもとで複雑化し成熟した。だが、以下に述べるように、21世紀は先進諸国では映画文化1.0にとってかなり厳しい状況が続くだろう。
     
     (次回に続く)

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    メディアの虚構と映像の真実

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    プロフィール

    Shusei Nishi

    Author:Shusei Nishi
    私の専門は映画であり、映画と音楽には相違点も勿論ありますが、多くの共通点もあります。個人的には、映画は現在の形よりもっと音楽的であっていいのではないかと考えています。

    ここでは批評やレヴューというほどではなく、偏愛する音楽と映画、そして生活全般における“別の選択”について書いてゆきます。

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